Abstract: Utsumi Yasuko (2009)
歴史資料としての『浪華勝概帖』:大坂の武士と文化
『浪華勝概帖』は江戸時代後期(19世紀)の大坂の風景を描いた優れた美術品である。本報告では、まず日本国内でもあまり知られていない『浪華勝概帖』という作品の全体像を紹介する(1)。つぎに所有者であった江戸出身の武士、および彼の大坂における交流について説明することで文化的背景を探る(2)。さらに、この作品が大坂土産であった意義を、作品が名所図の性格をもち(3)、かつ肉筆画帖という形式であることに注目し、この2つの観点から説明する(4)。また、このような肉筆画帖が海外への贈答品として贈られた例を紹介する(5)。最後に、美術品を歴史資料として論じることの意義を述べる。
(1)現在、大阪歴史博物館に所蔵されている『浪華勝概帖』は全2冊、漢文の序・跋、および95景の画からなる風景画帖である。嘉永元年(1848)の序は、大坂を代表する漢詩人篠崎小竹によるものである。また画は28名の画師によるもので、西山芳園、上田公長、玉手棠洲といった四条派につながる大坂の画師が多くみられる。タイトルの「勝概」とは「すぐれた趣」「よい景色」を漢語で言い表した言葉であり、大坂城、四天王寺、住吉大社といった名所や大坂の景観を特徴づける水辺の風景が描かれている。